
麻酔科標榜医取得者の声
実際に麻酔科標榜医を取得された先生方に、その背景やきっかけ、取得までの過程、そして取得後の変化についてお話を伺いました。これから麻酔科標榜医取得を目指す先生方にとって、具体的なイメージやヒントとなるようなリアルな声をお届けします。
産婦人科医として歩む、麻酔科標榜医取得への道

霞澤 亘
KASUMIZAWA Wataru
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専門領域:産婦人科
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年次:産婦人科入局後8年目、医師10年目
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麻酔科標榜医取得プログラムの研修期間:
2年4ヶ月(6年目〜8年目まで)
― 先生のプロフィールを教えてください。
私は産婦人科を専門としており、埼玉医科大学病院 産婦人科に入局して8年目、医師としては10年目になります。現在は産婦人科医としての業務を主軸にしていますが、医師5年目から7年目にかけての約2年4ヶ月間、埼玉医科大学病院 麻酔科にて研修を行い、麻酔科標榜医を取得しました。
― 産婦人科医でありながら、麻酔科での研修を考えたきっかけは何だったのでしょうか?
大きな理由は2つあります。 一つは、産婦人科の臨床現場における「麻酔の知識と技術の必要性」です。将来的に産科のクリニックなどで勤務する場合、医師自らが帝王切開の麻酔を管理しなければならない場面があります。また、近年のニーズの高まりによって、産婦人科医が無痛分娩に携わる機会も増えています。ただ、安全に無痛分娩を行うためには、確かな麻酔の知識と技術、そしてトラブルへの対応力を身につけることが不可欠だと感じていました。
もう一つは「全身管理能力の向上」です。お産や手術の現場では、患者さんの状態が急激に変化することがあります。その際の全身状態を的確に管理する力を養うには、麻酔 科での研修が最も効果的だと考えたからです。
― 研修先として、埼玉医科大学病院を選ばれた理由を教えてください。
私は埼玉医科大学の出身で、学生や研修医の頃から麻酔科を回らせていただいていました。当時から、指導体制が非常にしっかりしており、教育に熱心な環境であることを知っていたため、ここなら安心して学べると確信し、研修を希望しました。
また、当院麻酔科には「他科の医師でも標榜医が取れるような柔軟なプログラム」が整っています。実際に、産婦人科からこのプログラムに参加したのは私が2人目でしたが、現在は3人目、4人目の後輩たちが続いています。これは、産婦人科の診療科長が「麻酔もしっかり学びたい」という意向を汲んでくださり、それに対して麻酔科側も快く受け入れてくださるという、科を越えた素晴らしい連携体制があるからこそ実現しています。

― 実際にプログラムに参加してみて、どのような点に魅力を感じましたか?
決して一人きりで放置されることがない点です。難易度の高い症例や不安がある場合でも、必ず指導医の先生が目の届く範囲でサポートしてくださるため、安心して手技に臨むことができました。
また、当院麻酔科には多様なバックグラウンドを持つベテランの先生方が多く在籍されており、多種多様な麻酔管理のアプローチを直接学べたことは大きな収穫でした。さらに、大学病院という性質上、医学生へ教える機会も多く、「なぜこの処置が必要なのか」を深く理解し、言語化する訓練にもなりました。
― 研修中の症例についても教えてください。
産婦人科の症例を優先的に割り振っていただくなどの配慮をいただきました。その一方で、外科、整形外科、形成外科、消化器外科など、幅広い診療科の症例にも携わることができ、麻酔科医としての視野を広げることができました。

― 標榜医を取得し、産婦人科に戻られてからの変化はいかがでしょうか?
無痛分娩の現場において、自らスキームを構築するなど、主体的に携わる機会が格段に増えました。また、産婦人科領域の、術後の合併症や細かなトラブルが発生した際に、周囲のスタッフから頼られることも多くなりました。麻酔の知識と技術を兼ね備えた産婦人科医として、より安全で質の高い医療を提供できるようになったと実感しています。
― 医師のキャリア形成の面ではいかがでしょうか?
標 榜医取得は医師の医師のキャリアにおいて非常に大きな武器になります。例えば将来、クリニック等に勤務する場合、麻酔科標榜医の有無で年収が大幅に変わることもあるほど、価値の高い資格と聞いています。
また、私自身も4月から実家のクリニックに戻る予定ですが、一人で執刀し、一人で麻酔も管理しなければならない環境において、この2年強の研修経験があることは、経営者としても医師個人としても非常に有意義なキャリア構築だったと感じています。
― 麻酔科標榜医取得を考えている医師へメッセージをお願いします。
産婦人科に限らず、どの科に進むにしても、全身状態が崩れた患者さんに対応する力は不可欠です。麻酔科研修で「日常的に急変に近い状態を管理する」経験を積むことは、将来どの現場に行っても重宝される存在になる近道だと思います。
無痛分娩や手術管理など、麻酔の知識は得ていて邪魔になることは絶対にありません。標榜医を取れる環境があるのなら、ぜひ挑戦して自分の大きな武器にしてください。
研究医がゼロから挑んだ、麻酔科標榜医取得の軌跡

奥田 晶彦
OKUDA Akihiko
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専門領域:基礎医学・麻酔科
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年次:麻酔科5年目
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麻酔科標榜医取得プログラムの研修期間:
2021年4月~2024年12月
―先生のご経歴と、麻酔科を志したきっかけを教えてください。
私は1984年に広島大学医学部を卒業後、東京大学大学院などを経て、埼玉医科大学でも30年以上、一貫してES細胞などの基礎研究に携わってきました。その時は臨床に従事するつもりは全くなく、ずっと研究一筋の人生でした。
しかし、数年前に「医師免許を持ちながら、一度も患者さんを診ることなく一生を終えていいのか」という不安が頭をよぎりました。とはいえ、この年齢でいきなり外来に立つのは難しい。そんな時、私の研究室に学びに来ていた麻酔科の野木先生から「麻酔科なら、しっかり技術を身につければ、ベテランの年齢からでも活躍できる」と誘っていただいたのがきっかけでした。
2021年、62歳の時です。週に1回、水曜日だけ麻酔科に通い、ゼロから麻酔科研修をスタートすることにしました。
― 62歳からの研修は、苦労されたことも多かったのではないでしょうか?
正直に言えば、最初は「気管挿管さえできれば麻酔科の仕事の8割はこなせるだろう」と安易に考えていました(笑)。でも、実際はそんなに甘くはありませんでした。
標榜医取得には300例の挿管経験が必要ですが、私のような「週1回の研修医」を、医局の先生方は見捨てることなく、5年間かけて懇切丁寧に指導してくれました。若い先生なら1ヶ月で覚えることを、私は1年かけて覚えるようなペースでしたが、患者さんごとの姿勢の作り方や、難しい症例への対応など、本当に基礎から叩き込んでいただきました。
何より嬉しかったのは、無事に症例を達成して標榜医を申請できた時、医局の皆さんが自分のことのように盛大にお祝いしてくれたことです。「臨床医になったんだな」と、実感が湧いた瞬間でした。

― 研究医としての視点から見て、麻酔科の面白さはどこにありますか?
麻酔科は「全身管理」の学問です。手術中にバイタルが刻々と変化する中で、いかに安全に、血圧や呼吸をコントロールするか。基礎医学の先生でも、薬理学や生理学の知識がある先生であれば、目の前の患者さんに直結する面白さがあります。私は長年ゲノム領域の研究をしてきたので、その面白さを経験する事はできませんでしたが、臨床の現場で学ぶ知識は新鮮で、毎日が発見の連続です。最初は一人の患者さんを担当するのに、薬の名 前や略語を1時間以上かけて調べていましたが、今では自分一人で任される症例も増えてきました。
― 今後の展望と、後輩医師へのメッセージをお願いします。
私はこの3月で大学を定年退官しますが、麻酔科標榜医を取得したことで、麻酔科の客員教授として引き続き研究と臨床に携わる道が開けました。もし5年前に一歩踏み出していなければ、今のキャリアはありませんでした。「60歳を過ぎても、努力すれば標榜医は取れる。だから、40代や50代の先生ならもっとスマートに、確実にできるはずだ」とお伝えしたいですね。麻酔科医としての業務はかなり体力を必要としますが、外科医に要求されるほどではないと思うので、外科などで体力的に厳しさを感じている方や私のように研究一筋だった方にとって、麻酔科への転身は非常に有意義なセカンドキャリアになると思います。
埼玉医科大学病院の麻酔科は、どんな経歴の持ち主でも温かく、プロとして育ててくれる場所です。ぜひ、恐れずに飛び込んできてほしいですね。
※当インタビューは、2026年3月に実施したものです。
診療部長より
他科の医師が麻酔を学ぶ意義について
― 産婦人科医が麻酔科研修を受ける重要性について、先生のお考えをお聞かせください。
手技としての麻酔は、「何も起こらなければ」医師免許を持つ者であればできてしまうかもしれません。あまり知られていないのですが、実は「様々な些細な変化に速やかに対応し、何も起こらないようにする」のも 麻酔科医の重要な能力になります。私たちがこの研修プログラムで最も重 視しているのは、技術そのもの以上に「トラブルシューティング」の習得です。
無痛分娩を含め、産科領域は「無事に生まれて当たり前」という期待値が非常に高い分野です。万が一、母体や胎児に異変が起きた際、麻酔科医としての視点があれば対応可能な選択肢が増えます。
当院(埼玉医科大学病院)の産婦人科では、「麻酔科研修をきっちり修了した医師のみが無痛分娩を担当する」という方針を徹底しています。これは医療安全の観点から非常に優れたシステムだと自負しています。
― 麻酔科研修を受けた先生方は、現場に戻られてからどのような変化がありますか?
「これ以上は自分で判断せずに、麻酔科医にアドバイスを仰ぐべきだ」という境界線の判断が非常に的確になりますね。研修を通じて、麻酔科医と共通の言語で会話ができるようになるため、相談のスピードや、質も上がります。私たち麻酔科医としても、相手がどこまで理解しているかが把握できているので、スムーズで的確なバックアップが可能になります。こうした「顔の見える連携」が、診療科の壁を無くし、安心感や、強固なサポート体制に繋がっていると感じます。
― 学生や研修 医の間でも、このプログラムが注目されていると伺いました。
はい、非常に嬉しいことに、学生たちの間でも「埼玉医大の産婦人科に入れば、麻酔科でしっかり無痛分娩の教育も受けられる」という評判が広がっているようです。
最近では、実家が産婦人科医院を営んでいる学生が、「将来のために無痛分娩を学びたい」と当院を選んでくれるケースも増えてきました。
産婦人科医として働きながら、麻酔科標榜医もしっかり取得できる。この積み重ねが、医師としての大きな武器になるはずです。興味を持ってくれる若い先生が増えていることは、指導医としても非常に心強く感じています。

